《一つ屋根の下で》
この住まいは共働きの若いご夫婦とわずか1歳の女の子、そして将来さらに生まれるであろう子供のために計画されました。
幼い子供を預け、日々外へ働きに出るご夫婦にとって、夜間や休日に家で過ごす子供との時間は大変貴重なものであり、そのひとときを暖かく包む空間が求められました。そしてやがて子供が成長し、幼い子供たちだけで両親の帰りを待つ時がくるであろうその夕暮れに、子供たちに心細さを感じさせることなく優しく包み込む空間が必要とされました。
四隅が閉じられた求心的な部屋には2層分の高さが与えられ、そのおおらかな空間をひとつの屋根が覆っています。木造の屋根の仕組みを現すことで、覆われた空間の、そしてその下に集う家族の一体感を暖かく感じるさせています。
将来子供が過ごすであろう勉強室や居間の片隅の一段上がった畳敷きは道路側に面し、帰宅する両親はその明かりを感じ、また、直接視線を交わすことが出来ます。あるいは玄関アプローチの正面に台所の窓を設け外出した子供を真っ先に台所の明かりと夕げの匂い、両親の優しく温かい眼差しが迎えてくれます。
吹抜の間からは、2階の、子供と親が仲良く机をならべる家族の書斎、その奥の子供達の部屋へと途切れること無く気配がつながり、奥の子供室の階段は両親の部屋と結ばれます。
辺りの、道路側に庭の空地を設けその奥に四角く家が建ち並ぶ一般的な街並みの中で、この住まいは建物を鈎型に配置することで全ての部屋に良好な採光と通風をもたらすと共に建物の一部を周りの家並みから飛び出させることにより、両親が毎日通勤で利用する電車の車窓から、わが家の明かりを眼にし、その中で帰りを待つ子供らに自然と想いを馳せるでしょう。